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概要

密度汎関数理論の枠内で金属及び絶縁体の内殻準位の絶対束縛エネルギーを計算できます。 ペナルティ汎関数と厳密クーロン遮蔽法に基づき、 内殻準位の絶対束縛エネルギーを計算する一般的な方法が実装されています [88]。 得られた絶対束縛エネルギーは光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy, XPS)測定で得られた 束縛エネルギーと直接に比較することが出来ます。 この方法ではスーパーセル間の内殻ホールによる偽の相互作用は厳密クーロンカットオフ法で回避されます。 他方、変分ペナルティ汎関数法により化学シフト、スピン軌道相互作用、交換相互作用による 多重分裂を同等に扱うことを可能にします。 金属、半導体、絶縁体の8つのケースの内殻電子の絶対束縛エネルギーの計算値は、 実験値と比較して平均絶対誤差が0.4 eV(平均相対誤差は0.16%)であり、汎用的な計算手法で あることが実証されています [88]。

図 77に模式的に示すようにXPS測定での 励起過程におけるエネルギー保存則を考慮し、気体や固体の内殻準位の絶対束縛エネルギーは それぞれ次式で与えられます[88]。

$\displaystyle E^{\rm (gas)}_{\rm b}$ $\textstyle =$ $\displaystyle E^{(0)}_{\rm f}(N-1) - E^{(0)}_{\rm i}(N),$ (12)
$\displaystyle E^{\rm (bulk)}_{\rm b}$ $\textstyle =$ $\displaystyle E^{(0)}_{\rm f}(N-1) - E^{(0)}_{\rm i}(N) + \mu_0,$ (13)

ここで、 $E^{(0)}_{\rm i}(N)$ $E^{(0)}_{\rm f}(N-1)$ は それぞれDFTで計算された $(N-1)$電子系の始状態と$N$電子系の終状態の全エネルギーです。 そして、$\mu_0$は始状態の計算から得られた化学ポテンシャルです。 $E^{(0)}_{\rm f}(N-1)$ は文献 [88]で提案された方法で評価されます。 他方、 $E^{(0)}_{\rm i}(N)$ は通常のバンド計算から計算されます。
Figure 78: XPS測定での試料と分光計に対する模式的なエネルギーダイアグラム。
気体系、固体系、金属系での内殻準位の絶対束縛エネルギーの定義。
\includegraphics[width=18.0cm]{XPS-Fig1.eps}


式 (13)はギャップのある系、金属系のいずれでも成り立つ一般的な式ですが、 金属では式(13)はJanakの定理[89]を用いて以下のように変形できます。

$\displaystyle E^{\rm (metal)}_{\rm b} = E^{(0)}_{\rm f}(N) - E^{(0)}_{\rm i}(N),$     (14)

終状態の計算に対して$(N-1)$電子系の代わりに $N$電子系の全エネルギー計算に置き換え可能となります。 この表式は金属系の直観的理解によく合致しています。 つまり金属系では内殻ホールの生成後の終状態を、完全な遮蔽が生じた状態として理解できることになります。