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概要

ポストプロセスコード「Z2FH」を用いて系の$Z_{2}$ 不変量が計算できます。 FukuiとHatsugai によって提案されたベリー位相に基づく方法 [81,82]で系の$Z_{2}$ 不変量が計算されます。 本機能はノンコリニアDFT計算のみに対応しており、コリニアDFT計算では利用可能でないことに注意して下さい。 また、磁性系は現状の実装では扱うことが出来ません。 本機能を用いて発表を行う際には、文献 [84]を引用して頂けますと幸いです。

$Z_{2}$不変量は0または1の値となるトポロジカル不変量で、 時間反転対称性がある非磁性な系で定義されます。 $Z_{2}=1$$Z_{2}=0$ はそれぞれトポロジカル絶縁体と自明な絶縁体に相当します。 $Z_{2}$不変量は次式で定義されます。

$\displaystyle Z_{2} = \frac{1}{2\pi}{\displaystyle \sum_{n}^{\rm occ.}\left(\in...
...rtial B} {\bf A}_{n}\cdot d{\bf k}-\int_{B} F_{nz} dk^2\right)}\ ({\rm mod}\ 2)$      

ここで ${\bf A}_{n}=-i\langle u_{n{\bf k}}\vert\frac{\partial}{\partial{\bf k}}\vert u_{n{\bf k}}\rangle$ はベリー接続と呼ばれ、 そして、 ${\bf F}_{n}=\nabla\times{\bf A}_{n}$ はベリー曲率と呼ばれます。 積分範囲 $B=[-\frac{{\bf G}_{1}}{2},\frac{{\bf G}_{1}}{2}]\otimes[0,\frac{{\bf G}_{2}}{2}]$ はブリルアンゾーンの半分だけで十分です。 系が時間反転対称性を持つため、トポロジカル不変量がブリルアンゾーンの半分で定義されるためです。 積分を実行するため、重なり行列$U$を用います。これはFukui, Hatsugai, Suzukiによって提案され $U_{\Delta {\bf k}} = \det\langle u_{n}({\bf k})\vert u_{m}({\bf k}+\Delta {\bf k})\rangle$ と定義されます [81,82]。 ベリー接続とベリー曲率は各「プラケット」において以下のように計算されます。 ここで、プラケットはブリルアンゾーンのメッシュ状に切られた領域を意味します。

$\displaystyle A_{ab}$ $\textstyle =$ $\displaystyle {\rm Im}\log U_{ab},$  
$\displaystyle F$ $\textstyle =$ $\displaystyle {\rm Im}\log U_{12}U_{23}U_{34}U_{41}.$  

そして、各プラケットの上での整数値の場 $n (=0,\pm1)$ が以下の公式から計算できます。
$\displaystyle n({\bf k}) = \frac{1}{2\pi}(A_{12}+A_{23}+A_{31}+A_{41}-F)$      

ブリルアンゾーンの半分での全ての$n$を総和し、合計値の剰余2を考慮して、$Z_{2}$を得ます。 $Z_{2}$不変量がゲージ非依存であることに注意しなければなりません。 しかし、各$n$の値はゲージ依存で、これは計算機環境、コンパイラの最適化レベル、電子構造のわずかな差異によって変化します。 ${\bf A}$$F$の計算の詳細は 「Fukui-Hatsugai-Suzukiの方法によるチャーン数とベリー曲率の計算」の章を参照して下さい。 $Z_{2}$不変量の計算はブリルアンゾーンの半分での周回積分で実行されるので、 これは波動関数のゲージの任意性に依存します。 それゆえ、ブリルアンゾーンの半分の境界でゲージを補正しなければなりません。 図 74に示すように、境界で以下の3種類のゲージ補正を考えます。

並進対称性 (赤色の部分)

$\displaystyle \vert u_{n}({\bf k}+\frac{{\bf G}_{1}}{2})\rangle=e^{i{\bf G}_{1}\cdot{\bf r}}\vert u_{n}({\bf k}-\frac{{\bf G}_{1}}{2})\rangle$      

時間反転対称性 (青色の部分)

$\displaystyle \vert u_{n}({\bf k})\rangle=\Theta\vert u_{n}(-{\bf k})\rangle
=\...
...ngle\vert\alpha\rangle
-\vert u^{*\alpha}_{n}(-{\bf k})\rangle\vert\beta\rangle$      

クラマース縮退 (黄色の部分)

$\displaystyle \vert u_{2n}({\bf k})\rangle=\Theta\vert u_{2n-1}(-{\bf k})\rangle$      

この計算では積分区間の半分で固有値問題を解きます。 言い換えると、図 75に示したようにブリルアンゾーンの四分の一です。


Figure 75: ブリルアンゾーンの半分でゲージを修正。 波動関数のゲージを補正。 赤色の部分では並進対称性を満たすようにゲージを補正、 青色の部分では時間反転対称性を満たすようにゲージを補正、 黄色の部分ではクラマース縮退を満たすようにゲージを補正。
\includegraphics[width=8.0cm]{Z2-Fig1.eps}

他の領域での積分を実行する際には対称性的に対応するプラケットの 波動関数のゲージを固定して波動関数を生成し、積分を実施します。

三次元系では、ブリルアンゾーンは $k_n=0$, $k_n=\frac{{\bf G}_{n}}{2}$($n=1,2,3$)の 6面の時間反転不変な平面を持ちます。 よって、図 76に示すように6個の$Z_{2}$不変量 ( $x_{0},x_{\pi},y_{0},y_{\pi},z_{0},z_{\pi}$) が定義できます。 これらの不変量が以下の方程式を満たすことに注意してください。

$\displaystyle x_{0}+x_{\pi} = y_{0}+y_{\pi} = z_{0}+z_{\pi}\ ({\rm mod}\ 2)$      

それゆえ、4個の不変量だけが独立なパラメタとなります。 この事実に基づき、三次元系の$Z_{2}$不変量は次式で定義されます。
$\displaystyle Z_{2} = (\nu_{0}, \nu_{1}, \nu_{2}, \nu_{3})=(x_{0}+x_{\pi}, x_{\pi}, y_{\pi}, z_{\pi})$      

特に、$\nu_{0}=1$となる系は強いトポロジカル絶縁体と呼ばれます。 なぜなら$Z_{2}=1$の状態がブリルアンゾーンのすべての方向に現れるからです。

Figure 76: 三次元の逆格子空間で定義された6個の$Z_{2}$不変量。 これらの不変量は $x_{0}+x_{\pi} = y_{0}+y_{\pi} = z_{0}+z_{\pi}\ ({\rm mod}\ 2)$を満たす。 そして、4個の不変量が独立なパラメータとして残る。
\includegraphics[width=12.0cm]{Z2-Fig2.eps}


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