next up previous contents index
Next: 光伝導度と誘電関数 Up: OpenMX Ver. 3.9 ユーザーマニュアル Previous: 入力ファイルの例   Contents   Index

孤立系のイオン化ポテンシャルと電子親和力

デルタSCF法と厳密クーロンカットオフ法[91]により、 孤立系のイオン化エネルギーと電子親和力が計算できます。 厳密クーロンカットオフ法を用いると周期境界条件においても帯電した孤立系の計算が可能となります。 孤立系の基底状態とイオン化状態の二つの計算を実行し、その全エネルギー差から イオン化エネルギーと電子親和力を計算します。 まず、孤立系のイオン化エネルギーの計算方法を説明します。 最初の例は水分子です。孤立状態の計算を以下のように実行します。

   % mpirun -np 3 ./openmx H2O+0.dat | tee h2o+0.std
入力ファイル「H2O+0.dat」はディレクトリ「work」中に収容されています。 幾何構造は本計算の前に同一の計算条件で最適化されました。 スーパーセル間の偽の相互作用を回避するため、 厳密クーロンカットオフ法[91]が以下のキーワードで指定されています。
   scf.coulomb.cutoff            on     # default=off, on|off
厳密クーロンカットオフ法を用いてスーパーセル間の偽の相互作用を回避することは可能ですが、 クーロン相互作用のカットオフ半径は最も短い格子ベクトルの長さの半分に設定されるため、 中心単位胞でのクーロン相互作用が正しく計算できるように単位胞の長さは十分に大きく設定して下さい。

イオン化状態の計算は以下のように実行します。

   % mpirun -np 3 ./openmx H2O+1.dat | tee h2o+1.std
入力ファイル「H2O+1.dat」はディレクトリ「work」中に収容されています。 「H2O+0.dat」と比較して、以下のキーワードが変更・追加されています。
   scf.system.charge            1.0       # default=0.0
   scf.coulomb.cutoff            on       # on|off, default=off
   scf.SpinPolarization          on       # On|Off|NC
キーワード「scf.system.charge」の設定により、孤立系は正に帯電します。 「scf.coulomb.cutoff」を設定し、厳密クーロンカットオフ法を用いることで 帯電した系のクーロン発散が回避されます。 またイオン化することで系はスピン分極する可能性があるため、 「scf.SpinPolarization」を「on」に設定します。 二つの計算を終えた後に、以下のように出力ファイルから全エネルギーが得られます。
   Ground state:          -17.477268421216 (Hartree)
   Charged state of +1:   -17.010776518028 (Hartree)
そして、(+1に帯電した全エネルギー) - (基底状態の全エネルギー)として定義された イオン化ポテンシャル ${\rm IP}$は以下のように計算されます。
$\displaystyle {\rm IP}$ $\textstyle =$ $\displaystyle -17.010776518028 - (-17.477268421216) = 0.466491903188 ({\rm Hartree}),$  
  $\textstyle \approx$ $\displaystyle 12.69 ({\rm eV}).$  

得られた12.69 eV の値は実験値の 12.65 eV [96]と良く一致しています。 イオン化ポテンシャルと同じように、 (基底状態の全エネルギー) - (-1に帯電した全エネルギー) として定義された 孤立系の電子親和力も、以下の指定で計算できます。
   scf.system.charge           -1.0       # default=0.0
「scf.system.charge=-1.0」を設定し、電子を一つ付加して負に帯電させます。

表 13に 孤立系のイオン化ポテンシャルと電子親和力のベンチマーク計算の結果を示します。 イオン化ポテンシャルの計算結果は実験値と比較して、全般的に良く一致していますが、 電子親和力の計算値に関しては実験値からの逸脱が見られます。 特にO$_2$ と Cl$_2$ に対してその誤差が大きくなっています。

Table 13: 計算された孤立系のイオン化ポテンシャルと電子親和力。 すべての幾何構造は計算の前に同一の計算条件で最適化された。 本計算に用いた全ての入力ファイルはディレクトリ「work」中に収容されている。

イオン化ポテンシャル      
実験値 (eV) 計算値 (eV) 入力ファイル
H$_2$O 12.65 [96] 12.69 H2O+0.dat, H2O+1.dat
C$_2$H$_2$ 11.43 [97] 11.47 C2H2+0.dat, C2H2+1.dat
C$_2$H$_2$ 10.55 [97] 10.57 C2H4+0.dat, C2H4+1.dat
O$_2$ 12.04 [97] 12.85 O2+0.dat, O2+1.dat
CO 14.01 [97] 13.85 CO+0.dat, CO+1.dat
       
電子親和力      
実験値 (eV) 計算値 (eV) 入力ファイル
OH 1.81 [97] 1.82 OH-0.dat, OH-1.dat
O$_2$ 0.41 [97] -0.29 O2-0.dat, O2-1.dat
Cl$_2$ 2.37 [97] 0.96 Cl2-0.dat, Cl2-1.dat
CN 3.88 [97] 3.51 CN-0.dat, CN-1.dat
SiH 1.27 [97] 1.17 SiH-0.dat, SiH-1.dat


next up previous contents index
Next: 光伝導度と誘電関数 Up: OpenMX Ver. 3.9 ユーザーマニュアル Previous: 入力ファイルの例   Contents   Index