ランタノイドの4f電子は多くの場合スピン分極しており、多数(majority)スピン状態がフェルミエネルギーより数eV低くなります。 しかし、LDAやGGAではこれらのバンド構造の特徴を再現することができません。 4f電子に対してオンサイトクーロン反発を導入する+U法を用いた計算によってこの問題を解決することも可能ですが、 OpenMXではより簡便な方法として4f電子のスピン分極を組み込んだオープンコア型擬ポテンシャルが利用可能です (ただし、2013年版のデータベースでは一部の原子のみに対応しています)。 ランタノイドに対するオープンコア型擬ポテンシャルでは、4f電子を内殻状態の一部として扱います。 また部分内殻補正電荷は内殻状態として扱われている4f電子の電荷分布をよく再現するように生成されています。 2013年版データベースに収められているNd_CA13_OC.vps と Nd_PBE13_OC.vps がこの方法で作成されたものです。
図 4 は、オープンコア擬ポテンシャルを用いた CaCu 型構造の NdCo の計算結果を示しています。 これを見ると、オープンコア擬ポテンシャルを用いることで、LDA+U法を用いた場合と定性的に同じ結果が得られていることが分かります。 OpenMXでオープンコア擬ポテンシャルを用いる場合には、以下のキーワードにより部分内殻補正電荷をスピン分極させることができます。
<scf.pcc.opencore Nd 1 Co 0 scf.pcc.opencore>これは NdCo に対する例であり、1列目は「Definition.of.Atomic.Species」キーワードにて定義した原子種名、 2列目はスピン方向を指定するフラグとなっています。部分内殻補正電荷は、z軸に沿って「1」の場合には上向きに、 「-1」の場合には下向きにスピン分極します。スピン分極させない場合には「0」を指定します。 このキーワードを用いることで、サイトごとに4f電子の開殻状態のスピン方向を制御することが可能です。 オープンコア擬ポテンシャルは、隣接原子間で4f状態と軌道が重なっていない場合に有効です。 また化合物中での4f電子の占有状態が擬ポテンシャル生成時と大きく異なる場合には、オープンコア擬ポテンシャルの 適用は正当化されません。