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2つの幾何構造の差の解析

ユーティリティツールによって、3次元座標(デカルト座標)を保存している2つの$xyz$ファイルの差を解析することができます。 電場や置換基の影響により、どのように構造が変化しているのか解析することが可能です。 幾何構造の差の解析には以下で説明する3種類の解析方法が利用できます。

2つの幾何構造間の標準偏差(RMSD)は次式で定義されます。

$\displaystyle {\rm RMSD} = \sqrt{\frac{\sum_i^{N_{\rm atom}} (R_i-R_i^0)^2}{N_{\rm atom}}}.$      

2つの幾何構造間の平均偏差(MD)は次式で定義されます。

$\displaystyle {\rm MD} = \frac{\sum_i^{N_{\rm atom}} \vert R_i-R_i^0 \vert}{N_{\rm atom}}.$      

2つの幾何構造間の結合距離の平均偏差(MDBL)は次式で定義されます。

$\displaystyle {\rm MDBL} = \frac{\sum_i^{N_{\rm bond}} \vert BL_i-BL_i^0 \vert}{N_{\rm bond}}.$      

ここで、$N_{\rm atom}$$N_{\rm bond}$は、それぞれ原子数、カットオフ半径内の結合長(BL)を持つ結合数です。 また、それぞれの原子の$xyz$座標間の偏差ベクトルは、XCrySDen 形式で「dgeo_vec.xsf」という名前のxsfファイルに 出力されますので、2つの構造間の差を可視化できます。

以下に解析の手順を説明します。

(1) diff_gcube.cのコンパイル

ディレクトリ「source」内にファイル「diff_geo.c」があります。このファイルを次のコマンドでコンパイルします。

    % gcc diff_geo.c -lm -o diff_geo
  
コンパイルが正常に終了すると、ディレクトリ「source」内に実行ファイル「diff_geo.c」が生成します。 この実行ファイルをディレクトリ「work」にコピーして下さい。

(2) 2つの幾何構造間の差の計算

diff_geo.cのヘッダー部分に次のような「使用法(usage)」が記載されています。
     usage: 
              ./diff_geo file1.xyz file2.xyz -d rmsd

        option
           -d rmsd      a root mean square of deviation
           -d md        a mean deviation
           -d mdbl 2.2  a mean deviation between bond lengths, 
                        2.2 (Ang) means a cutoff bond length which
                        can be taken into account in the calculation
2つの幾何構造間のRMSDを知りたければ、次のように実行します。
    % ./diff_geo file1.xyz file2.xyz -d rmsd
  
計算結果は標準出力に表示されます。 またXCrySDenのベクトル形式で、各原子の3次元座標の差がファイル「dgeo_vec.xsf」に保存されます。 このファイルはXCrySDen中の「Display$\to $Forces」を使用して、可視化できます。 MDBLを計算する場合には、カットオフ結合距離(Å)を与えて下さい。 RMSD計算ではカットオフ半径内にある結合距離が考慮されます。 図90 (a)に最適化構造間の原子座標の差に対応するベクトルを示します。 この計算では中性グリシン分子と電子を1個付加したグリシン分子の構造最適化をそれぞれ行い、 最適化構造間の比較を行いました。 また図90 (b)に2つの系の全電子密度の差を示します。 大きな電荷の変化に伴って、大きな構造変化が生じていることが分かります。 この例から、電荷のドーピングや静電場によって構造変化がどのように起こるのかを知るために、 このツールが有用であることが分かります。

Figure 90: (a) 最適化構造間の原子座標の差に対応するベクトル。中性グリシン分子と電子を1個付加したグリシン分子の構造最適化をそれぞれ行い、 最適化構造間の比較を実施。(b) 2つの系の全電子密度の差。青色と赤色は、それぞれ全電荷密度の減少と増加を示す。 図はXCrySDenを使って可視化。
\includegraphics[width=14.0cm]{gly_diff.eps}