前章ではスピン方位を制御する制約付きDFT法を紹介しました。
制約付きDFT法を用いて磁性系の磁気異方性エネルギーの評価が可能です。
この場合、自己無撞着に計算された全エネルギーから磁気異方性エネルギーが計算されます。
ただし、その計算コストは大きく、また縮退する局在
軌道に対しては占有数空間における自由度のために
局所解に陥り、正しく計算できない可能性があります。
これらの問題を回避する手段の一つは第二変分法を用いることです。
この方法ではまず最初にコリニアDFT計算でSCF電子密度を計算します。この際にリスタートファイルが生成されます。
次にこのリスタートファイルを用いてノンコリニアDFT法の枠組みで一回だけの対角化を行います。
その際にスピン軌道相互作用(SOI)を考慮し、対角化を実行します。
この計算手法は第二変分法と呼ばれています。
第二変分法はHarris汎関数[14]に基づくため、
スピン回転とスピン軌道相互作用による摂動の効果はバンドエネルギーのみに生じます。
全エネルギーはバンドエネルギーと二重計算項の和で記述することが可能ですが、
Harris汎関数を用いれば一回だけの対角化により、入力電子密度とSCF電子密度の差の二次のオーダーの誤差で
全エネルギーが評価できます。その際に二重計算項は入力電子密度のみから計算されるため、
スピン回転とスピン軌道相互作用による摂動エネルギーはバンドエネルギーのみに含まれることになります。
従ってエネルギーの比較を行う際にはバンドエネルギーのみに着目するべきです。
Harris汎関数における二重計算項はスピン回転角に依存しません。OpenMXの出力では変化するように見えますが、
これは各エネルギー項が入力電子ではなく出力電子によって計算されるためです(出力に惑わされないよう注意して下さい)。
第二変分法を用いて、最初にコリニアDFT法で強磁性状態を計算し、SCF電子密度の結果を得ます。
次に、SCF電子密度が保存されたリスタートファイルを用いてノンコリニアDFTの枠組みでスピン軌道相互作用を考慮し、
一回だけの対角化が実行します。
リスタートファイルは以下のキーワードで読み込まれます。
scf.restart.filename FePt
scf.restart c2n
キーワード「scf.restart.filename」を用いて読み込むリスタートファイルが指定されます。
キーワード「scf.restart」の「c2n」により、コリニアDFT計算で生成されたリスタートファイルが
ノンコリニアDFT計算用に変換されます。
例として、「work」で利用可能な入力ファイル「FePt.dat」用いて最初のコリニア計算を実行し、
リスタートファイルを生成します。二回目の計算では、スピン方位を以下のキーワードで指定します。
scf.Restart.Spin.Angle.Theta 90.0
scf.Restart.Spin.Angle.Phi 0.0
この二つのキーワードはスピン方位のオイラー角(第二変分法はMAEの評価だけでなく、スピン軌道相互作用がどのようにバンド構造を変化させるか調べる際にも活用できます。 つまりノンコリニアDFT法による直接的なSCF計算が困難な大規模系のバンド構造の解析にも適用できるでしょう。
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